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「ごめんね。急いで行くから」 そうは言うものの体が重くて上手く動けない。 床で寝てしまったせいであちこち痛かった。 「……もう、いいよ」 「え?」 「もう、お前に振り回されるのは疲れた」 「涼太?」 低く、絞り出すような涼太の声に不穏な空気を感じる。 「なんだよ、魔王様って。いい歳してアホか。病気だかなんだか知らないけど。理解したいと思ってたけど。お前、俺のこと考えたことある?」 何、言ってるの? 突然の言葉に、すぐには理解できない。 「お前さ。ソレ、言い訳にして甘えすぎなんだよ」 ――なに、それ。 「いい加減、付き合いきれないから」 「……別れるの?」 「……はぁ。それも症状の1つだっけ? ほんと、めんどくせぇ」 パートナーと別れたくなるのもPMSではよくあること。 魔王様襲撃中にケンカをすると、必ず別れ話になった。 でも、こんな風に涼太のほうから言い出すのは初めてだった。 「電話でこんな話したくないけど。正直しんどい」 「……そっか」 そっか。 そんな風に思ってったんだ。 涙が一筋、頬を伝う。 あー、泣いちゃってるよ、私。 なんか変な感じ。 自分を斜め後ろから見下ろしているような感覚で。 今起こっていることがまるで他人事のように思えて、なんだか現実を受け入れられない。 「あのさ。他に言うことはないわけ?」 「……」 何を言えば正解なんだろう? 頭の中は真っ白だ。 何を言えばいいのか。何を求められているのか。何が起きているのか。何を考えているのか。何を、何を、何を――。 「泣きたいのは俺のほうだって。別れ話もまともにできないのかよ」 「……ごめんなさい」 なんとかそう口にしたけれど、掠れていて涼太にちゃんと届いたかはわからなかった。 だって! だって、だって、だって!! しょうがないじゃん。 私だって、どうしていいかわかんないんだもん。 私だってこんな自分はしんどいよ。 助けてよ。 ほんとはもっと泣いて、わめいて、迷惑かけて、「助けて!!」って叫んで、縋りたいよ。 でもさ。 そんなことをしたら、それこそ甘えてることにならない? だから頑張っていたつもりだったんだけどな。 失敗することのほうが多かったかもしれないけど、自分なりに涼太の迷惑にならないように必死だったのに。 まだまだ努力が足りないってことなのかな。
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