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とりあえず何か食べよう。 そういえば今日はまだ何も口にしていないじゃない。 そう気づいた途端、お腹がグーッと鳴った。 ガチガチに固まった体をほぐすように伸びをしてから立ち上がる。 軽い眩暈がした。 「大丈夫」 そう自分に言い聞かせるために言葉に出す。 まずはオレンジジュースを飲もう。 それとたっぷりジャムを塗ったトーストでいいかな。 それじゃあ朝ごはんのメニューじゃない、なんて思って小さな笑いが零れる。 あぁ、今から休日をやり直すみたいでむしろいいじゃない、もう夕方だけど。 これからできることってなんだろう? 出かける? それとも家で何かしようか? ゆっくり寝るのがいいのかな……。 「あ、抱きまくら……」 ちゃんとベッドで寝なきゃなって思ったら、気づいてしまった。 去年の誕生日に涼太からもらった、犬の形をした物を使っているんだけど。 なんか、今日はそれを抱いて寝るのは辛いな。 涼太が「俺だと思って毎日一緒に寝てね」だなんて冗談めかして言ったから。 涼太のことを想って寝るのは辛い。 「新しいの、買いに行こうかな」 先月、駅前の雑貨屋さんで可愛いアザラシの抱きまくらをみつけた。 とっても肌触りが良かったんだよね。 まだ売ってるかな? そうだ、ラベンダーのアロマオイルが切れていたんだった。 それも買いに行こう。 あとはコンビニに寄ってクリームたっぷりのロールケーキも。 それを食べて、ゆっくりお風呂に入って、アロマ焚いて、早めに寝よう。 きっとあのアザラシの枕は抱き心地が良いはずだから、朝までぐっすり眠れるよ。 泣き腫らした目で、たぶんひどい顔だけど。 買い物してこよう。 「大丈夫。今夜は眠れるよ」 そうしたら。 落ち着いたら。 涼太ともう一度話せるチャンスはあるだろうか? もう、本当にないのかもしれないけれど。 なんで、PMSとか生理とかあるんだろうね。 こんなときは女であることがしんどくなるよ。 自分でもどうしようもないそれを、涼太は必死で理解しようとしてくれた。 そんな涼太を頼りにしていたけれど、涼太には負担だったんだね。 ちゃんと謝りたいな。 「今、必要なのはアザラシの抱きまくらだよ」 ちょっと焦げてしまったトーストを口に詰め込む。 苦みとジャムの甘さが微妙に合っていなくて味はいまいちで。 なんだか今日の私のように思えた。 明日の朝は上手く焼けるといいな。      fin
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