餌付け

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『あいつ、河谷さ。野球部で大会近いから練習頑張ってるんじゃない? 持って行ってあげなよ。ね?」 別に好きというわけではないのだけれど結局丸め込まれて、まだ温い豚まん四つの入った紙袋をギュッと握り締める。 こうなれば、やはりあげた方が良いのだろうか。 目の前で「腹減った!」と大声で連呼する坊主頭に……。 覚悟を決める。 「あの、これ……。良かったら皆さんでどうぞ」 並んでいた四人の坊主頭の目が一斉に私に向く。 みんなの分あるな、と思いながら戸惑いがちに紙袋を手渡した。 「あ、え?まじで?今日もくれんの!?サンキュ!!」 そう言うなり途端に一つ目を紙袋から取り出しバス停で待つ短い間に三口で食べてしまった。あとの三人が羨ましそうに見てるのを「俺が貰ったのに……。仕方ねえなぁ、感謝しろよ」と言いながら一つを半分に割ったのを一つずつ配って、残りをまた彼は食べ始める。 その速さに私は感心しながらただ見詰めていた。 でも、こんなに喜んでくれるなら、明日もまた何かあげても良いなとつい思ってしまうくらいに気持ち良く食べてくれていた。 「あー、旨かった。サンキュ」 親指に付いた中の肉餡をペロリと舐め取りながら笑う、その笑顔につられて私も嬉しくて笑った。 『好きになるきっかけなんて分かんないものよ?』 途端に浮かんだ先輩の言葉。 いや、違うから! と、私は急に恥ずかしくなって俯いた。 彼に言葉を掛ける勇気もなく。
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