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それを破ってくれたのは彼だった。
「あ、あのさ! 明日はオムライスだって聞いた。俺、卵半熟は嫌だから、しっかり火通して」
「え?」
顔を上げたは良いもののキョトンと呆け顔の私に、今度は彼が坊主頭を掻きながら俯く。
「そ、それと……。今度からはあいつらの分はいらないから。お、俺のだけ作ってくれると……う、嬉しい」
友達の分はいらない……?
ああ、材料代とか気にしてくれてるのかな。
「あ、大丈夫です。いつも多めに作って、みんな持ち帰るから。うちの家族、少食ばかりだから」
「ちっ違うっっ」
……何が?
固まったまま、瞬きをする。
一瞬合った彼の視線がまた泳いでどこかへ行ってしまった。
「あの、あれ、さ。出来ればその……俺の為だけに作ってくれると、嬉しい……って言うか。牧野達に頼まれたからとか関係なく、あんたが俺の為に作ってくれたのを俺は食べたい!」
名前は河谷先輩。
二年生。
部活は野球部。
卵は半熟じゃなくてしっかりと火を通した方が好き。
多分、凄く照れ屋。
まだそれしか彼のことを知らない。
「……はい」
だけど、私の作った料理を本当に美味しそうに食べてくれる。
好きになるきっかけは、それだけで十分だった。
了
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