毒盛りの料理長

5/6
43人が本棚に入れています
本棚に追加
/301ページ
 ここは確実に『悪』集う場所である。その事情に目をつぶったりはしない。  しかし、だからと言って『良』という価値観の居場所が無いわけではない。  あっても良いのだろう。  そして、それによって『悪』を一時、忘れさせてやるのも悪く無い。  私のふるう料理にケチが付く事は無く、同時に感謝の言葉もあまり多くは無いが……喜んでくれているのは残された皿の上を見ればよくわかる。  ありがとう料理長、残念ながら私は今も盗賊に属してはいるが貴方から盗んだ味は『良く』生きている。  生かせている。そう信じている。  あくる日、貴方の店に押し入った盗賊どもに私以外が害された。  密かな復讐を企み、押し入ってきた盗賊たちに命乞いをして……私は盗賊に戻った。  いつか奴らの毒を盛ってやろうと思ったのだ。  私は料理人で、貴方たちにおいしい料理を提供できると売り込んだ。すると、おそらくその人相の悪さから親近感を抱かれたらしい。すんなり許されて、私は盗賊業に戻る事になった。  奴らの気が緩んだ頃を見計らい、毒を持って料理長の仇討ちをしよう。  そう思っていた。  だけどそうやって、盗んだ料理の技を駆使している内に……私は、あの日牢屋で食べた最後の食事の事を思い出してしまうのだった。     
/301ページ

最初のコメントを投稿しよう!