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独りになりたかった。
ただただ独りに。
生まれてから今まで、独りになったことはあるだろうか?
そんな考えがふと頭に浮かんだのは就職をして
3年目の春風が吹き始めた時期だった。
職場近くの駅で電車を待っていた。いつも通りスマホをいじっていた。春一番が吹き、僕の前髪をふわりと撫でる。
それに釣られて、顔を上げた。目に入ってきたのは今まで何百回も見たはずの駅のホーム。
その時、なぜかひどく違和感を持った。
駅のざわめき、人のざわめき、空気のざわめき
全てに。
その感覚は出社しても変わらなかった。
同僚の挨拶、上司への挨拶、部下への指示、どれをとっても酷く、気持ちをざわつかせた。
帰り道に公園に寄った。
いつもなら簡単に通り過ぎてしまう小さな公園。
特徴もないただの公園。
ただなぜだろう。
その時は無性にそこに行きたかった。
子供たちはすでに家に帰り、まるで世界から忘れ去られた様に公園は静まりかえっていた。
ペンキの剥げたベンチに座り、耳を塞いだ。
微かに公園の木々を抜けて聞こえて来た街の音も消え、まるで世界に僕だけがいる様に思えた。
その時間はかけがえのない時だった。
朝から感じていた違和感が無くなり、幸福とは
また異なる、充実感が身体中に満ちていた。
独りになりたい。
この広い世界でただ独り、その瞬間を味わいたい。
心の底から無性に欲望が湧き上がってくる。
ベンチから腰を上げ、一人暮らしのアパートへ
早足で向かう。
扉を開けるといつものガランとした部屋。
僕は電気も付けずに、ノートパソコンを立ち上げ、旅券サイトで航空券を買う。行き先はどこだっただろうか。覚えているのは今から直ぐ乗れる飛行機だったという事だ。
準備なんか要らなかった。
ただこのままでいたかった。
革靴とスーツで僕は走りだす。
どこに行けば独りになれるだろか。
何が独りなのだろうか。
何が答えなのだろうか。
そもそも答えはあるのだろか。
きっと僕はそれを探しにいくのだろう。
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