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彼は妙に明るい場所を歩いていた。
自分がどこに向かっているのかは、そのときはわかっていたそうだが、今では思い出せない。
しばらく歩いていると、何かが足にまとわりついてきた。
あたたかい、ふわふわとした何かだった。
歩きにくいなぁと思っていると、足元で、にゃあ、と鳴き声がした。
見れば一匹の猫が、その長い尾を彼の足にまとわりつかせるようにして、こちらを見上げている。
よくよく見れば、それは幼い頃に行方不明になった、あのソラだった。
彼は嬉しくなって、
「ソラ、こんなところにいたのかい。よかった。心配したんだよ。一緒に帰ろう」
と言って抱き上げようとしたが、何故か猫はするりとそれをかわした。
そして彼を一瞥すると、ふいっと行ってしまう。
彼は慌てて後を追った。
ソラは、記憶にあるよりずっと優雅で気取った歩き方をしていた。
「ソラ! 待ってくれ、ソラ!」
呼びかけても、時々ちらりと見るだけで、ソラはスタスタと行ってしまう。
ゆらゆら揺れる尻尾を追いかけているうちに、少し薄暗い場所に出た。
前方に光が見えた。まるでトンネルの中から外の光を見ているようだった。
ソラはその光の中へひょいと飛び込んだ。
「ソラ!」
彼もそのまま光の中へと飛び込んだ。
そして彼は――意識を取り戻した。
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