6 笑え。

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 だだだっと体育館を走る音。シューズが擦れて止まる音。ボールが弾む音。リングに邪魔されて決まらない鈍い音。綺麗に吸い込まれていったネットが揺れる音。  今は試合が始まる前のウォーミングアップ中。  午前の部のときと同じように陽太たちと一緒に体育館に来た私と風華ちゃんは、入る人数が限られているコートの隅で練習を眺めていた。 「南ー! パース!」  陽太の明るい声は煩い中でもよく通る。  それに対して南は無言でパスと出した。  受け取った陽太の瞳がきらりと光る。 「よっしゃ! ダアーンク!」  言うと陽太は軽やかに跳んだ。  調子に乗ってるときのちょっとバカっぽい顔。無駄に大きくなる声。可愛いし、見てるとどんな時だって笑顔になれた。 「うがあーっ! 惜しい!」 「バーカ」 「うっせー。次は決めるし!」  案の定ボールがリングに激突した陽太に、チームメイトから笑いとからかいの声が飛ぶ。  その後ろから南が無言でスパッとスリーポイントを決めた。 「きゃあ。南くん格好いいっ」  周りから女子の小さな声が沸き上がる。  私はその横でホッと息をついていた。  なんだ。怪我、大丈夫そう。  怪我なんてしてないって言ってたけど心配だったからよかった。 「南くん絶好調だね」 「ね。試合楽しみ」  風華ちゃんと話しながらお互いの顔はコートを向いたまま。  見ればスリーポイントを決めた南に陽太が嬉しそうにじゃれている。 『あいつが勝った方が嬉しいんじゃねーの?』  南の言葉が頭の中で流れた。  陽太と南の勝負もこれで決着がつく。  今は陽太が勝ってるけど南が追いつけない程は離れていない。  そんなことを考えていると、ちょうど同じことを考えていたのか、風華ちゃんが「シュート勝負、どっちが勝つだろうね」って呟いた。  ウォーミングアップ終了の合図が鳴る。  私はどっちに勝ってほしいんだろう。
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