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突然笑い出した私に陽太が戸惑いの声を上げる。
見るといつもは元気よく弧を描いている眉毛がしょんぼり垂れていて情けない顔になっている。
それが堪らなく可愛くて、それが堪らなく嬉しくて。
「ふふっ。心配してくれてたんだ。私がアイツに苛められてるんじゃないかって」
「いやだってさ、お前。明らかに楽しんでなさそうっていうか、怒ってるように見えるし」
そっか。気にしてくれてたんだ。見ててくれてたんだ。そっか。……そっか。
「楽しんでないよ~。当たり前じゃん」
「だったら俺、南に……!」
「いいのいいの。やめてやめて」
私は笑顔で首を横に振った。
陽太は私を恋人にはできないけど、別にどうでもよくなったんじゃなくて。ちゃんと大切に思ってくれてるんだってわかったから。
「陽太の周りが言うように私、別にアイツに負けてるなんて思ってないし。昔からやられっぱなしじゃないの知ってるでしょ?」
「でも明理だって一応女の子な訳だし……」
「一応ってなによ~」
失礼しちゃうって腕を組んだ。
大袈裟に頬を膨らませてみせると、陽太の顔にやっといつもの笑顔が戻る。
私も笑う。
陽太のその笑顔ひとつで、いつまでだって笑っていられる気がした。
「でも本当、助けが欲しかったら言えよ」
「大丈夫大丈夫。何かこの頃慣れてきたっていうか、コミュニケーションみたいなところあるし。意外に優しいところもあるから。微妙に。ほ~んの少し」
鍋洗いのときに待っていてくれた分と絆創膏分。未だよくわからない持ってきてくれたお弁当分を足して、南の優しさの分量を親指と人差し指の間で表した。
柔らかな風が後ろで結んだポニーテールを揺らす。
陽太の特別になれなくても、陽太のその気持ちが嬉しかった。
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