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『あんた馬鹿だろ』
失恋して傷付いて泣いていた私に言い捨てたアイツの言葉。
あの日から、私とアイツは顔を合わせれば喧嘩する、そんな関係。
「ねえ聞いてよ! 風華ちゃん!」
教室のドアを怒りに任せて思い切り開け放ち、私はこの胸の内にある苛立ちを早く誰かに聞いてほしくて親友の席まで駆け寄った。
朝の教室は静かで澄んでいて、場違いな空気を持ち込んでしまったことは自覚していたけれど、どうしても我慢ができない。
「おはよう。明理ちゃん。今日も元気だね」
机に両手をバンッ! とついてもこの反応。
我が親友ながら肝が据わっているというか、動じなさでいったら天下一品だ。しかも小首を傾げて微笑む姿は最高に可愛らしい。その笑顔には癒しエッセンスでも入っているのだろうか。アロマキャンドルを炊いたときのように甘く、先程までの怒りが少しずつ治まっていく。
「……おはよう。風華ちゃん」
「ふふっ。落ち着いた?」
「うん。ごめんね」
「明理ちゃんのそういう素直なところ、私好きだよ。……で、今日は何があったの?」
風華ちゃんは髪を耳に掛けながら話を促してくれる。
「どうせ南くんのことだろうけど」
付け足された言葉の中に忌まわしい名前がサラリと耳に入ってきて、私は肩に掛けっぱなしの鞄の持ち手をぎゅっと握り絞めた。
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