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胸の奥がぎゅうっと絞られたように苦しい。
陽太のいつも大きく開く口は僅かに動くだけで、そこからなかなか声が出てこない。
その間、まるで死刑宣告を待っているかのような心境だった。
陽太が思い切ったように空気を吸う。
やっと口から飛び出した言葉は私が予想していたものとはまるで違ったものだった。
「南の、こと、なんだけど……さ」
言いながらどんどん萎んでいった陽太の言葉の中に再び現れた名前に目を丸くする。
え? 南のことで話?
「ほんとは結構気になってたんだけどさ、俺が言うのはどうなんだろうって思ったりして」
いつもはくだらなすぎて笑えないようなことまで無駄に大きな声で話す癖に、今は耳をそばだてていないと聞き逃してしまいそうだ。
「周りにもそれとなく話振って聞いてみたんだけどさ、みんなじゃれ合ってるだけだろとか、挙句明理なら自分でどうにかできんだろとか言ってまともに答えてくんなくて」
「陽太?」
「いや。もしふざけ合ってるだけで、明理が本気で嫌がってないんなら別にいいんだけどさ。今日もなんか、パン横取りされてたみたいだし」
陽太に似合わない小さな言葉たちを全部拾い終えると漸く何が言いたいのかわかった。
「その……、俺に心配されるの嫌だろ? でももし明理が苛められてて、困ってるんだとしたら俺……」
「ぷっ。あははっ」
「あ、明理?」
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