2 不思議くん。

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「あ、やべ。何か先輩が呼んでる」  ジャージのポケットが振動してスマホを取り出すと、陽太が思いっきり顔を顰めた。 「どうせ今からじゃショートホームルームも終わるころだろうし、俺、このままちょっと部室行ってくるわ」 「わかった。私もゆっくり教室戻るよ。何か言われたら適当言っておくね」 「ああ。ごめんな。じゃっ」 「おう。頑張ってきたまえ」  いつものノリで手を振って見送った。  陽太とはやっぱりこういう明るいのがいい。気まずいのなんて嫌だもん。 「ん~。私も戻りますかね」  両手を空に向かって挙げ、背中を後ろに反らすと、不意にかさりと音が鳴って振り向いた。 「あ! 猫!」  どこから迷い込んできたのだろう。茶色のしま模様が入った猫がちょこんと座っている。 「可愛い」  私はしゃがんでおいでおいでと人差し指を動かす。  怖くないよ。君の仲間だよって気持ちを込めて「にゃ~」と鳴いたら、可愛い声で鳴き返してくれた。  これはもしかしたら触らせてくれるかもしれない。  調子に乗った私はそっと足を前に出す。  どうやらその一歩が猫くんのパーソナルスペースを超えてしまったようだ。  ぴくっと耳を立てて、どう考えても身体より小さいツツジの咲いた垣根の穴に顔を突っ込んで姿を消してしまった。 「待って!」  思わず猫くんを追う。  彼が通っていった垣根に慌てて近づくと偶然見つけた私でもなんとか通れそうな垣根と垣根の間の隙間。  垣根は石の花壇に植えられていて、その地面は私が今立っているところより高い位置にあったけど、追わなくちゃという思考が働いていたからか、迷いなく上げた足を踏み入れた。  普通だったらもっと早い時点で見えていただろうあまり高さのないツツジの向こう側。  しかし私の脹脛(ふくらはぎ)より背丈の低い猫くんを夢中で追っていたからか視線が低くなっていて、地面ばかり見ていた視界にそれは映らなかった。  だからツツジが揺れる地面に登り終えたところで漸く垣根の向こう側に寝転がっていた人物に気付き、 「ぎゃっ!」  私は思いっきり身体を跳ね上げさせた。
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