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「な、な、なっ」
「…………」
煩かったのか前髪から覗いた眉毛がぐっと中央に寄る。
私は驚きすぎて言葉にならない声を発しながら、バクバクと破裂しそうな胸を両腕を使って必死に押さえた。
――何で南がこんなところにいるの!?
私の表情で何を言いたいのか察した南は嫌そうに目を細めた。
「お、驚かさないでよ! 心臓止まりそうになったじゃん!」
面倒くさそうに仰向けになっていた上体を起こす南に向かって煩い胸の鼓動を誤魔化すように叫ぶ。
南はかったるそうに襟足を掻いた。
「……勝手に止まってろよ」
「ていうか何で? 何でここにいるの!? ショートホームルームは!?」
「……その言葉、そっくりそのままお前にかえ――って、ちょっ!」
「きゃっ!」
動揺して無意識に足を前に出していた。
ツツジの枝だったのかもしれないし、垣根を囲っている石の花壇の出っ張りだったのかもしれない。
とにかく何かに引っかかる感覚がして、次の瞬間にはどさっという音と衝撃が私の身体に襲っていた。
あまりの一瞬の出来事に私は目を白黒させる。
「ばっ、おま……っ、何やって……っ」
先程体感した破裂しそうな心音とは比べ物にならない程の鼓動が頭の先まで激しく響き渡る。
自分より大きな身体を下敷きにしながら、私は放心状態。
なんとか目の前のジャージを握ったら、ぴったりくっついた硬い胸から直接響いた怒声。
「俺を殺す気かっ」
躓いた私はそのまま石の花壇の上から南目掛けて落っこちたのだった。
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