2 不思議くん。

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 暫く黙っていた南が口を開いた。  顔は変わらずそっぽを向いている。  先程話していた場所とここは結構近い距離にあるから予想はできていたけれど、やはり南に陽太との会話を聞かれてしまっていたようだ。  それにしても。 「それ、アンタが言う?」  アナタに苛められてることを心配されたんですが。  絶対私が言いたいことは伝わっているはずなのに、南は無反応。 「いつから聞いてたの?」 「……言っとくけど、後から来たのそっちの方だから」  つまり最初から聞かれていたという訳か。  思わず苦笑が漏れた。 「はは。恥ずかしいところ見られちゃったな。そういえば失恋現場も目撃されるしで最悪~」 「……守ってもらえばよかったじゃん」 「だからそれアンタが言うか~って」  落ちた気持ちを拾い上げるようにできるだけ元気に笑ってみせた。  でも南の視線は相変わらず冷めていて、作り笑いはあっさり空気に溶けていった。  そんな目で、見ないでほしい。そんな、大して興味なんかない癖に責めるような、そんな……。 「……振ってしまった相手だから、自分が介入したら嫌なんじゃないかって気にしちゃうような奴。これ以上悩ませちゃったら可哀そうでしょ?」  言いながら陽太が言い難そうに瞳を泳がせる姿を思い出す。 『ほんとは結構気になってたんだけどさ、俺が言うのはどうなんだろうって思ったりして』 『その……、俺に心配されるの嫌だろ? でももし明理が苛められてて、困ってるんだとしたら俺……』  心配して、助けてくれようとしてくれたんだって知れて凄く嬉しかった。  だから、この胸の奥にある苦しい気持ちなんて気付かなくていい。  陽太の駆けていく後ろ姿に、眩しい笑顔に、気遣いの言葉に、嬉しい以外の感情はいらない。  切ない、なんて、陽太には絶対言わない。 「やっぱり、あんた馬鹿だな」  南の声が落ちてくる。  その声が思ったより柔らかく耳に響いて顔を上げた。  南の顔に優しさなんて滲んでいない。  聞き間違い、か。
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