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南は言うだけ言って何事もなかったかのように去っていく。
私はあまりの容赦ない切り口に呆然とその背中を見送っていたけれど、南が自分の席に座る頃には我に返って、隣に立っている風華ちゃんの方へ勢いよく顔を向けた。
「聞いた? 今の! 聞いた!?」
「ふふふ」
「似合ってないとか! 私、別にアイツの意見なんか聞いてないのに!」
……聞いてないのに、地味にショックだ。
「口開けばひねくれたことばっかり。褒めろとまでは言わないけど、あそこまで言う必要ないと思う。この陰険野郎。根暗!」
「でもその陰険根暗野郎はクラス一モテるのよね~」
風華ちゃんの言葉に、うぐ……、と口を噤む。
風華ちゃんの言う通りだった。
私は全然納得できないけど、高校入学初日。
一人ずつ席を立って自己紹介をしていく中、私の順番が終わり、次の人へ順番が回って椅子を引く音がした瞬間。クラス中の女子のはしゃいだ可愛い声が小さく響いた。
『南優人です。よろしく』
そんな簡単な挨拶だけで、その倍以上緊張しながら話した私より、数段大きな拍手を掻っ攫っていった。
でもそのときはまだアイツのことを悪く思っていなかったし、私も素直に拍手を送っていた。
正直、こんな格好いい人いるんだって思ったし。……少しだけだけど。
でもでも! 今ではそんなこと思った自分を後悔してる。
もしタイムマシーンがあったら絶対過去にさかのぼって「騙されるな!」って顔の前で手を叩いて目を覚まさせてあげるんだ。
アイツは私に意地悪ばっかりしてくる内面は全然格好よくない奴だって。
だけどそれは当然できない訳で……。
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