1 アイツの嫌がらせ。

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「べ、別に落ち込んでない、よ」 「何言ってんだよ。元気だけが取り柄の癖に」 「なっ!」  馬鹿にしたような言い方についムッと口を尖らせる。  そんな私を陽太は可笑しそうに笑った。 「ごめんごめん。間違えた。明理の取り柄はいつも騒がしいところだった」 「陽太あ?」 「わあ~。明理が怒った~」  片手を振り上げると、陽太は大袈裟に両手を上げて逃走していった。  まるでその背中にはランドセルでも揺れているかのようだ。 「もうっ!」  私の周りにいる男はデリカシーがない奴ばっかりか!  一気に騒がしくなった空気に私は「まったく」と腰に手を当て、鼻から勢いよく二酸化炭素を押し出した。  そしたら何だかもうどうでもよくなっちゃって、私の口から自然と小さく笑みが零れる。 「……もう」  でもやっぱりお洒落したくて、背伸びして頑張った髪型を見て欲しかったなって。  おはよう! って声をかけながら男子の集団に交じっていく背中を見つめていた。 「最悪……」  放課後の家庭科室の手洗い場にある食器用洗剤をだしながら思わず愚痴が零れる。  旧校舎のここは普段使っている教室や運動部がいる校庭から少し離れているからか静かで、開けた窓から時折聞こえてくる吹奏楽部の音と廊下を通る人達の足音くらいしか聞こえない。  そんな本来なら穏やかな空間の中、私は眉間に皺を寄せ、焦げ付いた鍋に金タワシという武器を持ち戦いを挑んでいた。
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