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 入学式の日、私は早速いじめに遭った。  癖の酷い地毛の茶髪に度の強い黒淵の眼鏡。極度の人見知りとあがり症で、クラス内での最初の自己紹介を失敗してしまったこともあり目をつけられたらしい。 『円香さんさぁ、見てるとイライラするんだよね』 『ほんっと、愚図でノロマって感じ』  私は人に嫌われるのが、負の感情を向けられるのが怖くて怖くて、ただただ裏庭の校舎の壁を背に膝を抱えて震えていた。 目を閉じて、何も言い返せずに罵詈雑言を受け続けていると急に視界が明るくなる。 「キミ達新入生?可愛いね、こんな暗いところにいないで僕と遊ばない?これからカラオケ行くんだけど」  現れたのは入学式で学校代表として挨拶をしていた王子優真だった。 彼は入学したての1年生からも既に支持を集めており、私を虐めていた女子達は皆一斉に黄色い声をあげていた。  先輩が、用があるから先に校門で待っててと告げると女子4名は一目散にこの場を去っていった。その後ろ姿が消えるまで見送った後、彼は溜息を吐きながら天を仰いで叫び出す。 「あーーーー…怖かった!」  私がその大きな声にびくりと肩を竦めると、王子先輩は慌ててこちらに駆け寄ってくる。 「わ、ごめん。急に大声出して。大丈夫?あいつら最低だね」  そう言って差し出された先輩の手は僅かに震えていた。私はその手を借りてゆっくりと立ち上がると、先輩は怪我とかはなさそうだねと安堵の表情を浮かべる。 「……私が鈍くさいのも悪いので…」  小声でぼそぼそと返答すると先輩は少し怒ったような、でも丁寧な口調で窘める。 「そうやって自分を責めるのは良くないよ。キミはアイツらに何か酷いことを言ったり、一方的に危害を加えたりしたの?」 「い、いえ、何も……」  しどろもどろになりながら答えると、王子先輩は太陽のような笑顔で口を開く。 「じゃあ君は何も悪くない、もっと自分に自信をもって、胸を張っていいんだよ。鈍くさいなんて言って自分を傷つけたら、それは立派な加害者だ。だからそんな事言わないで、もっと自分の事、大事にしてあげて」  先輩の温かい言葉に涙が零れる。 しゃくりあげながらもなんとかお礼を返すと、彼は私の頭をポンポンと優しく撫でてその手にハンカチを握らせる。返さなくていいから、そう言って先輩は足早に校門の方へ駆けて行った。
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