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「先輩も、変わるじゃないですか」
今日で、3日間の恋人ルールは最後ですね。
そう続けると、先輩は手を止めて私を見下ろす。
ずっと、先輩に恩返しがしたかった。
学校で女の子に囲まれている先輩はどこか笑顔になりきれていない気がしていて、あの優しい先輩がこんなルールを設けているのも何か無理をしているんじゃないかなとずっとずっと気がかりだった。
「だから、先輩が悩みを私に打ち明けてくれた事、このルールの最後の彼女にしてくれた
こと、すごく嬉しかったです。
先輩の事、いっぱい知れたから、勇気を振り絞って告白して良かった。
恋人は今日で終わりだけど、私で良ければ…いつでもまた相談に乗るので、その…友達としてはお付き合いを続けてくれませんか?」
「ごめん…それは、嫌だな」
頭上から落ちてくる声に肩を落とす。
一縷の望みをかけて発した言葉だったが、先輩が今まで恋人が終わった後の女の子と距離を置いている事には気づいていた。
「そ、うですよね…こっちこそわがまま言ってごめ……」
零れそうになる涙を見せないようにその場から逃げ出そうすると私の右腕が掴まれる。
次の瞬間、その手を引かれて、私の体は背後から先輩に抱きとめられていた。
「――工藤円香さん、友達じゃなくて、僕の、本当の恋人になって下さい」
初めて呼ばれた自分の名前、耳に直接流し込まれる言葉に息を呑む。
だって、こんな都合の良い展開、許されるのだろうか。とどめていた涙が瞳からボロボロと零れ落ちる。
そんな酷い表情の私にも関わらず先輩は慈しむような視線を向けながら、あの日と同じようにハンカチを手渡してくれた。
私はそれを受け取って顔を整えると彼に向き直り、とびっきりの笑顔で幸せな気持ちを声に乗せる。
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