グラスのジョッキが飛んできた

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グラスのジョッキが飛んできた

子供の頃の話だ。 お父さんとお母さんが大きな声で今日も喧嘩をしている。 怖い。 お母さんが言った。最近いつも父のいないところで私に父に言うように言い聞かせていたことがあった。 子供の言うことなら聞いてくれるからと。 お父さんに、 「お酒飲んじゃダメだよって言って」 と。 とうとう私は初めて、喧嘩の仲裁に入った。 そして、お父さんに、 強く何回もお母さんの言うとおりに、 「お酒飲んじゃダメだよ」 と言った。怖かったのに。何度も。両親のためだと思って。 そしたら、お父さんは子供の私の顔めがけて、お酒の入ったグラスのジョッキを思い切り投げつけてきた。私の顔すれすれだった。 私は放心状態になった。そして、泣いた。 次の日、父は笑っておどけながら、 「昨日は怖かったか?」と 聞いてきた。私は何も答えられなかった。 そして、そんな父に初めて不信感を抱いた。あんなに今まで大好きなお父さんだったのに。お父さんが私の中からお父さんへの大好きを消してしまった。 思春期に入ったころ、昔はあんなにお父さんが大好きだったのに、そんなに嫌ってかわいそうでしょと、母に責められた。 でも、私は本当のことは何も言わずにいた。 言っても、本気で聞いてくれない事に薄々気がついていたからだ。
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