131人が本棚に入れています
本棚に追加
まだ瀧先輩の指示が来ない。
どうしよう。黙っていたら不自然に思われる。星縞をかくまっている事がばれてしまうかもしれない。
先生に本当の事を伝えたら、たぶん瀧先輩の計画をダメにしてしまう。だったら、伝えずに指示を待ったほうがいいだろうか。正解がわからない。でも何か言わないと。
「……し、信号を渡って……、しょ、商店街のほうに……」
絞り出した声は細く、かすれていた。しかも、苦手な嘘をついたばっかりに、ひどく歯切れの悪い言い方になった。
「そうですか。ありがとうございます」
先生が啓都を信じて、言った方向へと走っていった。
これでよかったのだろうか。悪い事をしてしまった気がする。
星縞は車内から、先生の後ろ姿を目で追っている。
『啓』
不意に瀧先輩の声がして、慌てて携帯電話を耳に当てた。
『もうこのまま誘拐しよう。人質のほうからわざわざ来てくれるチャンスなんて二度とないぞ。デカくなってるなら尚更な』
瀧先輩の声は弾んでいた。さっきの拙い自分の説明でもきちんと理解してくれたようだ。
「でもおれ、準備とか何もしていなくて……」
『必要なものは今から揃えればいい。無理やり連れ込んだわけじゃないから、薬も飲ませなくていいだろ。これから一緒に遊びにいこうとかテキトーなこと言って、人質を車に乗せたまま買いに行っちゃえよ』
「乗せたまま、ですか」
『そうそう。とりあえずコンビニなら近くにあるだろ? 手袋と文房具と……、持ってなかったら地図とか、その辺はコンビニで調達して、他の道具はオレのほうで売ってる店を探しとく。店が見つかったらすぐに連絡するから』
ぷつ、とそこでいきなり電話が切れた。
瀧先輩の部屋で聞かせてもらった、あのフィクションのような計画が、急に現実味を帯びてくる。
最初のコメントを投稿しよう!