はじまりは突然に

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 まだ瀧先輩の指示が来ない。  どうしよう。黙っていたら不自然に思われる。星縞をかくまっている事がばれてしまうかもしれない。  先生に本当の事を伝えたら、たぶん瀧先輩の計画をダメにしてしまう。だったら、伝えずに指示を待ったほうがいいだろうか。正解がわからない。でも何か言わないと。 「……し、信号を渡って……、しょ、商店街のほうに……」  絞り出した声は細く、かすれていた。しかも、苦手な嘘をついたばっかりに、ひどく歯切れの悪い言い方になった。 「そうですか。ありがとうございます」  先生が啓都を信じて、言った方向へと走っていった。  これでよかったのだろうか。悪い事をしてしまった気がする。  星縞は車内から、先生の後ろ姿を目で追っている。 『啓』  不意に瀧先輩の声がして、慌てて携帯電話を耳に当てた。 『もうこのまま誘拐しよう。人質のほうからわざわざ来てくれるチャンスなんて二度とないぞ。デカくなってるなら尚更な』  瀧先輩の声は弾んでいた。さっきの拙い自分の説明でもきちんと理解してくれたようだ。 「でもおれ、準備とか何もしていなくて……」 『必要なものは今から揃えればいい。無理やり連れ込んだわけじゃないから、薬も飲ませなくていいだろ。これから一緒に遊びにいこうとかテキトーなこと言って、人質を車に乗せたまま買いに行っちゃえよ』 「乗せたまま、ですか」 『そうそう。とりあえずコンビニなら近くにあるだろ? 手袋と文房具と……、持ってなかったら地図とか、その辺はコンビニで調達して、他の道具はオレのほうで売ってる店を探しとく。店が見つかったらすぐに連絡するから』  ぷつ、とそこでいきなり電話が切れた。  瀧先輩の部屋で聞かせてもらった、あのフィクションのような計画が、急に現実味を帯びてくる。
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