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娘たちが大粒の涙を流している脇で、コヨーテが菜箸の先で、ピッピッと液晶画面を押す。
動画の比較画面があらわれ、やらせレポーターが大口でスープをすすっている。
「ストップ! シアさん、これを見て」
メレンゲが拡大され、こぼれ落ちそうなダシが白黒反転する。
「あなた! 箸で画面をクリックするの、不潔だからやめてちょうだいって何度……フガ!」
鼻息を荒げる妻の口にナゲットを叩き込み、コヨーテが「ここを見ろ」と言わんばかりに指し示す。
[むにゃむにゃ……おぃひぃ……じゃなかった! おかしい」
したたる豚骨スープのしずくが僅かにブレている。量子チューブのデータ転送レートは事実上無限に等しく、画像の遅延はありえない。
このような画像の乱れは二つ以上の通信が干渉しあっている時しか起きない。
「何者かが通信を妨害しているッ! 明白な敵意を感じるッ」 グレイスが顔を綻ばせて指摘する。
「それもそうだけど。それ以前に、豚骨の流通は禁じられているはずよ。豚さんかわいそう……」
ソニアが画面の中で美味しそうに麺を啜る女を睨む。
「宇宙畜権擁護機構に通報しましょう!」
「待って! もっと見るべきところがあるの」
はやるシアをコヨーテが抑えて、席につかせた。
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