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見上げた空には月が無く、星の明かりのみがゆっくりと足元を照らしている。
荒野には強い風が吹き、少年の纏う外套の袖をはためかせていた。
少年は暗闇によく映える銀色の髪をなびかせ、その前髪の間から覗かせた
藍色の瞳で岩陰に目を凝らす。
その手には白く鋭い光を放つ剣が握られている。
「自分は隠れて見学ってことか……。
随分大層なことだな。」
少年が吐き捨てるように挑発をすると、低い獣のうなり声が四方から聞こえる。
数十匹に周りを取り囲まれているようだ。
「坊主、砂漠狼って知ってるかい?
お前がいくら腕に自信があるったって、一噛みでもされりゃあ
3秒で全身に猛毒が回るぜ?
今なら金目の物だけ置いていけば命だけは助けておいてやる。さぁ取引だ。」
獣を率いている当人は姿を隠し、戦闘には参加しない様子だ。
砂漠狼と呼ばれる狼達のうなり声の後方から呼びかけが聞こえる。
少年の後ろには、拳一つ分程低い影が寄り添っている。
影の主は金の長い髪を束ね、丹精な顔立ちをした女性だった。
この辺を根城にしていた夜盗は彼女の身につけている、色鮮やかな石が輝くアクセサリーに目をつけ、少年らを襲ってきたのだった。
「ここは大人しく金品を差し出した方が……」
少年と同じ藍色の瞳が不安そうに揺れ、彼女は少年の服の裾をきゅっと握った。
少年はその女性の手にそっと手を添え、野盗には聞こえない音量で話かける。
「ラピス様、貴女が苦労して手に入れたものを、おいそれとくれてやる
寛大な心は私にはありませんよ。
安心してください。
これでもお兄様達と同じ鍛錬をこなしてきたんですよ?」
少年は女性に大丈夫、と力強く頷き、改めて剣を目の前にかまえた。
「残念だが脅しには乗ってやらん!
砂漠狼だろうと野犬だろうと知るか!
道を開けてもらおう!」
少年の声に呼応するかのように、乾いた風が少年と野盗の前を横切っていく。
「ハッ!威勢がいいな坊主!
泣いて命乞いしたってもう遅いぜ?
おい、お前らメシの時間だ!存分に殺ってやれ!」
野盗はピュイイと指笛を鳴らすなり、狼達は喉を鳴らし一斉に少年を目掛けて食らいついてきた。
「ラピス様、この円から離れないでください!」
少年は女性の周りを囲むよう、地面に素早く剣で円を描いた。
女性――ラピスから十歩程離れると少年は狼達と対峙した。
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