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そうならない為に、最大限の努力はした。寄せ集めの二万の軍勢に過酷な調練を課し、一応の組織化はした。それでも不安は残る。その種を洗い出しては、ひたすら潰した。戦の準備とは、不安との戦いでもあると言ってよい。不安は、迷いを生むのだ。それは父を見ていて学んだ事である。
犬塚の原野が見えてきた。後方には、薄らと水城の城壁もある。
宮方の三万が、既に布陣していた。鶴翼。漲るような闘気で溢れている。
「総大将の人柄が出ておるわ」
宮方を率いるのは、驍勇で名高い菊地隈蘇守。その傍には、知恵者の烏丸公知が軍師として付いている。総大将の宮様は、大宰府の御座所で控えているという報告を受けている。
「だが、我々の軍も負けてはおらぬ」
魚鱗を組ませた自軍を、宮内大夫は近習達の前で敢えて褒めてみせた。
贔屓目でなくても、意気軒昂である。それもそのはず、探題方の殆どは宮方に参じた武将と敵対する勢力なのだ。親兄弟を殺された者もいて、宮方憎しと燃え上がっている。
「始めよ」
宮内大夫の号令で法螺貝が鳴り、軍が一斉に動き出した。
戦は平凡な押し合いから始まった。先鋒は、異母弟の一色兵庫。まだ若いが、一色党きっての猛将である。相手は城備後という報告が入った。城備後は、隈蘇守の次に名の出る荒武者。この男には、何人もの武将が討たれている。序盤の山は、この男をどう攻略するかであろう。
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