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運転席側から銀色の制服姿の若い女が出てきた。
「マリネリス峡谷のキャンプまで担当する運河警備隊のCA2015号AIです。所要時間は8時間です。1分後に出発します。着席したらその場を動かないように」
人型Aiアンドロイドは乗客を一瞥した。そのまま通路を歩いて、後方の螺旋階段の下で停止した。
「これより、展望室に於いてレーダーと目視による警戒態勢に入ります」
運河警備隊のアンドロイドは階段を昇っていった。
「じゃあ、まとあとでね。ミルクティちゃん」
サクラは名残惜しそうに前列のシートへ戻った。
ミルクティがシートベルトをしていると、父親も隣席に腰を降ろした。
お尻のあたりに震動が伝わった。
地上車が動きだしたのだ。
ミルクティは閉じられている窓のブラインドをそっと上げた。
湖や家が横へ流れ、景色の向こうに3台の大型バスが見えた。みんな同じ場所へ行くのだろうと、思った。今度は首を通路側に伸ばして、車内を観察した。
パパが横に座って固く眼を閉じている。その眼の縁から涙が流れていた。父親の横顔をしばらく見つめていたが、その痛みはミルクティにも伝わって、彼女は声を上げて泣き出した。
ママ、ママ・・・
泣きながらも、濡れた眸は観察を続けていた。
乗客は、サクラちゃんの家族が三人、運河技師の人が二人、あとはは知らない高齢男女のペアがふた組、そして、いちばん後ろの席に座っているのはミルクティたちの荷物をトラックルームに仕舞ってくれた警備のおじさん。
確か、スウェイさんだっけ。
彼女は警備員のネームプレートを思い出した。
スウェイと視線が合った。スウェイはかすかに笑って、ミルクティに寝るようにジェスチャーでしめした。
ミルクティは前に向き直った。
メルが彼女の膝の上で丸くなって寝ていた。
どのくらい眠っていたのかはわからない。
突然の叫び声で目が覚めた。
膝にいたはずのメルの姿がない。肩にものっていなかった。
サクラちゃんところへ遊びに行ったのだろうか。
「地球連邦軍の攻撃だ!」
「まあ!なんてことを。わたしたちは民間人よ!」
「でもあいつらは、ミルクティの母親を殺害したじゃないか!」
「それは彼女が、辱めから逃れるために抵抗したからでしょ!彼女は少しも悪くないのに!」
前席の男女の会話が、ミルクティの耳にも届いた。
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