85人が本棚に入れています
本棚に追加
可愛らしい首をちょこんと傾げ、それからまた食べるのに夢中になった。
「まだ、ムリか・・・」
幼い少女はがっかりした表情になった。
「あなたがおしゃべりできないと、いつまでたっても、わたしは独りね」
湯気の上がるパッケージを開くと、温野菜とローストミートのライスロールサンドの匂いが漂った。
ミルクティがひとくち目を頬ばったとき、ペットの耳がぴくりと立った。
ビーンズの皿から口を離して、そわそわしたように警戒をはじめたのだ。ミルクティを見上げると、一気にジャンプして肩に飛びのった。
「どうしたの?」
やがて、床にかすかな震動が伝わった。足の裏がびりびりとするような揺れ方だった。
体が左右にゆっくりと往復するような感覚だ。
「地震?」
<きゅるるる、きゅるるる・・・>
メルが唸りだした。
どううううん。
どううううん・・・・
遠くから地響き。
それは、くるぶしをつかまれてすくわれるような、ゆっくりした揺れに変わっていった。
テーブルの食器が小刻みに鳴りはじめた。
ミルクティは大きな揺れに備えて、テーブルの縁につかまって、身構えた。
だしぬけぬに、玄関のドアが勢いよく開いた。
運河建設技師の制服姿の男たちが現れて、エントランスを壁のように塞いでしまった。
「ミルクティ!!」
運河技師のひとりが大きな声を上げた。
「あ、パパだ!」
三人いた男たちの中に父親を発見して、すぐに駆け寄った。
父親以外は知らない人たちだった。
「ミルクティ! たいへんなことになった。いますぐ荷物をまとめてここを出るぞ!」
父親は少女を抱き上げた。
「スーツケースに大事な物を詰めなさい!」
いつもの優しいパパとは違っていた。
眉間にしわがより、厳しい目つきになっている。その目は真っ赤に充血していた。
「着替えと非常食と水。メルのごはんも忘れるなよ」
「うん。部屋に置いてある緊急持ち出しバッグのことでしょ?ピンク色の」
「ああ、それだよ。ママといっしょに用意したやつだ」
パパの声はいつものように柔らかかったが、やはり、どこか刺々しかった。
「パパの顔が怖いよ!どうしたの? ママはどこ!?」
ミルクティは悲しくなって、涙を浮かべた。父親の態度が尋常でないことを悟ったのだ。
パパの顔もしわくちゃに崩れた。
最初のコメントを投稿しよう!