85人が本棚に入れています
本棚に追加
浅黒く火星焼けした頬に、大粒の涙があふれ出した。
パパの泣き顔を見るのは、生まれて初めてだった。ミルクティはびっくりしてしまって、本当にたいへんなことが起きたのだと、思った。
「ママは悪い人たちと戦って、・・・とても勇敢だった。遠いお星様になってしまった・・・パパは、ママを・・・、ママを守ってあげられなかった。すまない」
父親は幼い少女を抱きしめた。
「ママは、死んだ、の?」
ミルクティは瞳を大きく見ひらいた。華奢な手がぷるぷると震えた。
パパはうんうんと頷くだけで、言葉を発さなかった。
「ママは帰って来ないの?」
「ああ、そうだ」
「うそでしょ?」
「ミルクティ、よく聞くんだ。悪い奴らはここへも来る。だから安全な場所へ避難するよ」
父親は、抱き上げていたミルクティを、そっと床に下ろした。
「緊急避難用のピンク色のスーツケースを持っておいで。パパは自分のを持ってくるから」
パパはもう泣いてはいなかった。手の甲で涙をぬぐうと、いつものようにてきぱきと行動した。
「おふたりさん。気の毒だけど、急がないと」
パパといっしょにやってきた仲間のひとりが、せかすように言った。
制服に、スウェイという名前がプリントされている。
「ああ、わかってる。支度するまで、五分待ってくれ」
ミルクティは大人たちのやりとりを聞きながら、ベッドルームに入った。
ピンク色のキャスターつきのスーツケースを運び出す前に、枕元に置いてあった黄色いバックパックを背負った。バックパックの中身はレディの必需品だ。
「おいで、メル。あたしの肩にのるのよ。それから、これらからは勝手にお散歩に行ってはダメよ。わかってる?」
ジャンボリスは、ぴょこんと少女の肩に飛び乗った。ふさふさした尾っぽをぴんと立てた。
「あのね、ママが死んだの。遠いお星さまになったそうよ。あたしも大きくなったら、ママの星を探しに行くの。あなたもいっしょよ、メル」
メルは可愛らしい舌をだして、ミルクティの首筋を舐めた。
「おーい! 支度、大丈夫か?」
パパがベッドルームのドアを開けた。
「ゴーグルも忘れるなよ」
「はい、パパ!」
ミルクティは、壁にかかった超合金チタン製のゴーグルヘルメットをかぶった。
無線機、緊急栄養剤、5000時間ライトが内臓されているすぐれものだ。
最初のコメントを投稿しよう!