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2階建の装甲バスが待機していた。
火星の気候や土壌に適合した地上移動車両である。
車高は3メートル、ボディはカーボンファイバーとアルミニウム合金、タイヤの厚さは60センチ、6車軸12輪。ホイールの径は1.5メートルもあり、起伏の激しい砂丘や過酷な気候の対応仕様だ。
ミルクティにとって、それは乗り物というよりは、見たこともない巨大で得体の知れない化け物だった。
リチウムエンジンの回転音が、少女の内臓を突きあげるように震わせた。
車体に並んだ窓は全てシャッターが下ろされており、中は見えない。
装甲バスには前後にドアがあったが、開いているのは後部ドアだけだ。後部ドアからは航空機のようなタラップが伸びていた。
タラップの下で、銀色の戦闘スーツを着て武装した男が警戒していた。キャナルコースト・ガード(運河警備隊)の徽章をつけている。
「さあ、中へどうぞ。いつでも出発できますよ」
警備隊員は銃口を下へ向けた。
「荷物はこちらのトランクルームへ仕舞ってください」
バスの1階部分が貨物庫になっていた。
父子のスーツケースが、トランクルームに搬入される。
父子につき添っていた運河建設技師とミルクティがバスに乗り込むと、警備員もその後に続いた。
車内は通路を挟んで、1列6座席の配列。前方の運転席は透明なパネルで仕切られている。
外見は巨大なバスだが、内部は意外にも狭く天井も低かった。
階上への螺旋階段が通路の後方にあり、階段下にトイレと洗面、調理室。
バス内で生活できる設計になっており、限られた空間を有効活用するのだと、あとで、ミルクティは教えられた。
「あ、ミルクティちゃんだ!」
バスにはすでに先客がいたらしい。
ともだちのサクラちゃんだった。
黒い髪と黒い瞳の女の子である。火星で生まれたミルクティと違って、地球の東洋民族の血をひいている子だ。サクラというのは、薄いピンク色をした可憐な花のことらしい。
サクラちゃんの家族は、ミルクティの自宅から300メートルほど離れた所に住んでいた。
「あ、メルもいっしょね!」
ともだちはミルクティの肩にのっている小動物の頭を撫ぜた。メルはすぐにサクラの肩に飛び移って、親愛のぺろぺろをした。
ミルクティの父親は、サクラの両親と話し合いを始めた。親たちは、時折、子供たちを眺めながら難しそうな顔で話している。
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