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どういうことだろう。
意味を確かめるためにパパの座席を見たが、そこに父の姿はない。
「パパ! パパどこ!?」
今度は、バスが縦に大きくバウンドして揺れた。床から天井へ突き飛ばされるような衝撃だった。実際、体重の軽いミルクティが宙に浮き、次の瞬間、お尻ごと座席の叩きつけられた。
お腹の中心が痛くなった。
腹部をさすっていると、容赦なく、運転席から爆発音がした。
地震のように揺れたあと、バスは停止した。
外で何が起きたのか分からず、窓から外を見た。
仲間のバスが真っ赤に燃えている。そのバスの中から、銃撃している運河警備員。
「連邦軍の攻撃を受けています。、皆さん、気をつけて!」
螺旋階段を駆け下りてきたスウェイが叫んだ。
「パパはどこ?」
ミルクティはスウェイにつめ寄った。
「パパは上にいるよ」
「上? 上で何をしてるの。あたしも行く!」
「だめだ!」
再び、縦揺れと横揺れが襲った。
上の階で激しい銃声。
思わず天井を見上げると、糖蜜色の物体が降ってきた。
「まあ、メル! あなたどこに行ってたの!」
小動物はミルクティの頭を飛び越えて、床を走り抜けた。
「だめよ、ここにいなさい!」
メルは洗面ルームの前で止まって、ミルクティの方に振り向き、ふさふさの尻尾をふった。
「あなたと遊んでるヒマはないの」
ミルクティは怒ったが、スウェイが間にはいった。
「動物は、時として、とんでもない予知能力を発揮すときがあるんだよ。洗面室の奥にクローゼットがあるから、そこに隠れなさい」
「でも、パパが」
「パパからの伝言だ。クロゼットに隠れてじっとしていなさいって」
「うん、わかった」
ミルクティはバックパックを背負い直して洗面室へ急いだ。
ドアを開けると、左手に鏡、中央ににシャワーブースのカーテン。
シャワーブースの右側にスライド式扉があった。
ミルクティは扉の中に身を隠した。
クロゼットルームには、サニタリーグッズ、救急薬品の棚、折りたたまれたシーツ、非常食の箱、飲料水ケースなどが積まれていた。
「ミルクティちゃん!わたしもいっしょに隠れなさいって言われたの!」
サクラちゃんだった。
「うん、そうしよう!」
二人はクロゼットに潜りこんだ。室内灯を消すと、窒息しそうな濃い闇になった。
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