-

8/8
前へ
/8ページ
次へ
 背後で湯呑をテーブルに置く聞き慣れた音がして我に返った。俺好みに濃く淹れた熱いお茶の香りが鼻をくすぐる。 「美樹ね、いじめられた友達を励ましに行くんですって」  妻が俺の傍らに立った。先ほど小学生の愛娘が駆け去った道に目をやる。 「そうか」  しばしの沈黙が流れる。 「あの子はお前に」 「あの子はあなたに」 「とてもよく似ているから」  声が重なった。 美菜の指が俺の手に触れる。俺はそっと彼女の手を握る。  窓から差し込む夕陽は、俺たちの背後に二人並んだ影を映し出しているだろう。  遠い昔、あの日の帰り道のように。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加