1人が本棚に入れています
本棚に追加
背後で湯呑をテーブルに置く聞き慣れた音がして我に返った。俺好みに濃く淹れた熱いお茶の香りが鼻をくすぐる。
「美樹ね、いじめられた友達を励ましに行くんですって」
妻が俺の傍らに立った。先ほど小学生の愛娘が駆け去った道に目をやる。
「そうか」
しばしの沈黙が流れる。
「あの子はお前に」
「あの子はあなたに」
「とてもよく似ているから」
声が重なった。
美菜の指が俺の手に触れる。俺はそっと彼女の手を握る。
窓から差し込む夕陽は、俺たちの背後に二人並んだ影を映し出しているだろう。
遠い昔、あの日の帰り道のように。
最初のコメントを投稿しよう!