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 前田恵介はここ三ヶ月のあいだに起こった不可思議な事件を、ただの殺人だとはどうしても結論づけたくはなかった。  最初の事件が起こり、ひと月ほどたったころだ。前田ははじめて事件現場にむかった。何も自ずから率先して足を運んだわけではない。興味を持てない事件にたいしてまったく動こうとしない不良社員に苛立ちを募らせた編集長が追い立てた形でというのが正解だった。  正直、記者として別段に興味をそそられる類のものではなかった。編集長が手もとに投げつけた資料記事から適当に選んだだけあって、まったく乗り気のしない案件だった。いまさら過去の事件をいじくり返してみても、傷ついて反応を示すのは遺族だけだ。わざわざ悪者になどなりたくもない。重い足取りで到着した現場だったが、そんな考えも、一歩場に足を踏みいれると、途端に失せてしまった。  町は閑静な住宅街で、事件のあったことなど誰も覚えていないのでは、それどころか何もなかったのではないかと疑いたくなるほどに、平常の気配を色濃く醸していた。     
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