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 頭を悩ませるのも面倒臭くなった宗像は、店員に促されるまま差しだされた製品を購入した。店員が側を離れると、彼のうしろに張りだされていた店内広告に、『最新機種大量入荷』の文字が大きく掲載されていた。  家に着き扉を開くと、甘辛い匂いに家のなかが満たされていた。扉が閉まると同時に、期待に頬を赤らめ、床を鳴らしてあつしが迎えに出てきた。奥で香苗の金切り声が飛んでくる。 「おかえり」  宗像はあつしのこういう現金なところが好きだ。普段なら玄関まで顔を出すことはない。たいていリビングにある五七型テレビとむかい合ってこの時間までゲームに興じている。自分へのプレゼントだと知っているくせに、期待に頬を赤らめ、恩着せがましく、持ってあげる、のひと言を添えて鞄と紙の手提げ袋にむかって手を出してきた。宗像は鞄だけを渡すと、何も特別なことなどない風体で靴を脱いだ。あつしの口もとが途端に不満をたたえはじめる。宗像はしたり顔で、リビングへ入るよう小さな頭をうしろから撫でるように押した。あつしの足音は先ほどとは打って変わり、力ない静かなものになっていた。     
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