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 暗い自室で寝たふりをしている幼い背中を叱りつけると、鼻をすすりあげる音があからさまに聞こえだした。嘘泣きしても無駄だぞ、と脅すと、寝ます寝ます、と調子よい声が飛んできた。  叱ってからもしばらくは物音が聞こえていた。おそらく宗像が思っているよりも、ずっと遅くまで起きていたことだろう。底知れない子供の体力に驚きながら、あべこべに失われていく自分の活力に落胆した。  軽めに朝食を平らげ、身仕度を整える。せっつくあつしの相手をしつつ髭を剃っていると、剃刀を頬のうえで横にひいてしまった。肌を顎先にむかって落ちる血の流れを鏡に映す。 「ごめんなさい」 「たいした傷じゃないよ」 心配そうに覗きこむあつしの頭をそっと撫でるうちに、濡れた肌の水分と絡まって、赤がゆっくりと色を薄めていった。  車内はあつしの歌声で満ちあふれていた。プレーヤーから長く伸びたイヤホンを耳にいれ、何やらテンポの速い曲らしく早口で聞きとれない歌詞を、振り付けを交えて一心に唱えている。裏声で高らかに歌っている様子を目にしながら、失敗したなと後悔の念が頭をかすめた。この手のものを与えれば、会話などなくなってしまうに決まっている。  香苗の表情が険しくなったかと思うと、唸りにもとれる声をあげた。 「没収のうえ、Uターンの刑に処す」     
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