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 式が終わり、火葬場の窯にふたりは別々に納められた。耐火蓋が重い音を伴って閉められると、再度、経があげられた。坊主の行う息つぎの合間をうずめながら唸りが聞こえる。耳を澄ました。勢いよく燃える炎の響きだ。ひょっとして、という期待を容赦なく焼きつくしてしまう。もう二度と戻ってくることはないと、あきらめることを強いられる音が体中にあふれたとき、その思いは涙となって目から流れだした。平常に立っていることすら困難で側にいた人間が腋から腕をいれて宗像を支えた。足に踏ん張りがきかず、宗像はただぶら下がっていただけだった。  読経が終わり、気づくとホールの長椅子に横たわっていた。女性の係員が冷たいタオルを何度も変えにきては、申しわけなさそうにお辞儀をしていった。焼きあがったと男性係員が呼びにくると、ふたたびこみあげてくるものがあり、また泣いた。  三日が過ぎた。戒名を記した位牌を仏壇にふたつ並べ、一日一日を呆けて過ごす。時間は流れても、事件当日のあの瞬間だけが湧きあがっては宗像を苦しめる。香苗の形相もあつしの異常さも、現れてはバラバラに飛び散り、またもとの姿で動きはじめる。何度も何度も繰り返されて終わりがない。一〇年、香苗とならばそれ以上の時間をともに歩んできたというのに、唐突な死がすべての記憶をたったひとつに塗り替えてしまった。     
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