2

3/13
前へ
/114ページ
次へ
 手のなかにあるデジタルプレーヤーを見つめる。真っ白だった本体は、所どころ赤黒く染まってしまった。単なる血液だ。磨いていけば新品同様とはいかなくとも、ある程度はきれいになるに違いない。それでも、あつしの存在した証拠を消してしまうことなどできるわけがない。道路の植えこみに飛ばされた小さな右手に握られていた誕生日プレゼント。あのとき遊園地に赴くことなどなければ、誰ひとりとして不幸にならなかったかもしれない。後悔の念が宗像を押し潰す。  説明書を思いだしながら、機器をいじる。あの晩、あつしが怒られながら聞いていた歌のタイトルが液晶画面に表示された。最近のヒット曲なのだろうが、羅列されたアルファベットに思い当たるリズムは何ひとつない。イヤホンを耳につけ、曲を流した。あの日の車のなかでも大絶叫していたやつだ。少しずつ取り戻されていく記憶に頬を緩ませながら、目から滲みだす涙を手の平で何度も拭った。  一曲、二曲とプレーヤーは記録した歌を流しつづけた。何曲めにさしかかったころか、耳の奥をえぐるようなノイズがイヤホンを通じて飛びこんできた。驚いてプレーヤーから手を離す。コードが外れ、ようやく音がとぎれた。大切な形見だと慌ててプレーヤーを拾う。壊れてはいないかと確認したが、液晶部分は変わらず曲名を示しつづけていた。  『誰も知らない歌』     
/114ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加