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 一〇曲目、あつしが最後にダウンロードした歌はデータが壊れているのか、もともとがこんな曲なのか、宗像にはわからなかった。音量をしぼって、ふたたびプラグを本体に差しこむ。何も聞こえず、しばらくのあいだ思いだせる限りの方法で操作をつづけたが、九曲目までは難なく聞けたにもかかわらず、どうしても次の曲が流れようとはしなかった。やはりデータそのものが駄目になったのだろうとあきらめていると、いつの間にか曲名すら表示されなくなっていた。あつしの記録を消してしまった。プレーヤーを仏壇に飾り直すと、ただただ沈んでいく気を紛らわすために表へ出た。  真昼の光に満ちた商店街の華やかさは宗像にとって眩し過ぎた。晴れ渡った空のもと、誰もが笑みをたたえて通りをゆく。こんなに人にあふれているというのに、孤独感はあべこべに強まる。親子三人の姿を見かけるたびに、涙が零れていく。  ファストフード店の前で足がとまる。あつしにせがまれ、よく食べていたことを思えば、記憶の欠片を求めて入店したい気持ちにかられる。  自動ドアが開くと同時に、いらっしゃいませ、と声がかかった。店内には若いカップルから散歩途中と思われる老人まで、さまざまな時間の流れが集っている。あつしはひとりで食べ切れないほどのメニューを注文し、横から香苗が食べ残しをつまんでいく。ついこのあいだまで側にあった時間だ。  カウンターで店員が笑顔で話しかけると、にわかに宗像は現実に引き戻された。慌ててコーヒーを頼むと、三分たたないうちに商品が出てきた。ちょうどうまい具合に席をたつサラリーマンを見つける。急いで座った場所は、ふたり掛けの小さなテーブルだった。あつしを膝に乗せて座ったこともあったな、と侘しさはますます募る。     
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