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いつものように一時間ほどの残業を終え、帰宅の途についた。八時には家に到着し、一〇時には床につく。翌朝になれば同じように七時に目覚め、九時になれば家を出る。変わらず、不変の明日のために一生を進むだろう。そう思っていた。
一〇メートルほど先に公園入り口を目にしたころ、悲鳴が耳に飛びいってきた。その叫びは街を震えさせるかと思わせるほどの大きさで、一瞬、秀一の体を強く緊張させた。
――逃げよう。
自然、足早になる。公園で何が起こったのかといった好奇心や、誰かを救いださなければならないといった正義感だとか、まったく湧きあがりはしなかった。
――どうせ、若い輩が騒いでいるだけだ。ひょっとすると、達也が奇声をあげているのかもしれない。
公園を通り過ぎてから考えたが、どうでもいい。
中学にあがって半年たつころには、達也の周りにそれまでと毛色の違う仲間が集まるようになった。はじめのうちは遅く帰ってきたときなどには叱りつけていた。じきに何度もつづくようになり、そのうち説教をしても反抗的な目つきで睨むようになった。怯んでなるものかとますます厳しくあたったが、呼びつけても家を出ていってしまうだけだった。ついには、すべてをあきらめた。妻の登美子に愚痴を聞かされても、お前の務めだといいはなって逃げた。
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