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家にむかってひたすら走る。叫び声がどこから飛んでくるのか、目の端でそれとなく辺りをうかがった。街中に響く声は聴覚を麻痺させ、不安だけが募っていく。ようやく家に着いたとき、息を整えながら、振り返って異変がないことを確認した。少しずつ収まっていく動悸を感じつつ、大きく深呼吸をする。最後にひと際大きな悲鳴を聞いたのは、そんなときだった。
靴を脱ぎはなしたまま家のなかへ駆けいった。室内に明かりはない。停電しているのか、電灯も点かず、家の様子を知る手立てがなかった。框に足をかけると靴下に染みる湿り気を感じた。かまわず踏みこんだが、ずるりと滑り、思わず転倒しそうになる。
唐突に、表が明るく光った。思わず身構える。何事が起きたのか戸惑うが、一秒もたたないうちに雷鳴が空気を震わせる。
――雷?
先ほどまで予兆もなかった天候の崩れに驚きつつ、足の裏を確かめる。二度めに光った雷でつま先が赤黒く染まっているのがわかった。収まっていた動悸が途端に速まる。
「登美子」
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