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足の裏に何かが突き刺さる。下を見ると、砕けたガラスの破片が畳のうえいっぱいに輝いていた。刹那。生暖かい飛沫が顔に散りかかる。重い音が畳を揺らす。音の先へ視線を直すと、先ほどまで達也であったはずの影が、首のない胴体となっていた。
――?
一瞬、訳もわからず、それでも、達也を探す。次第に現状を把握していく意識が、今起きている事象を理解しようと周囲に目を向けはじめたとき、胴体のかたわらに、目を剥いて転がる達也の頭を認識した。
ただ俯いて話をつづける秀一は、骸骨のようだ、と前田は思った。時折、足の裏を右手の人差し指で掻き、治りかけている傷痕をこじ開けようとしている。
「事件以来、何の気力も湧かず、仕事も辞めてしまったよ」
今では病院と家との往復で、点滴を打ち、何に効くかわからない薬をもらって帰るだけだ、と肩を落とし、ため息とともに病んだ笑みを浮かべた。
居間を眺めた。聞かされた話と照らしあわせて見る限り、何もかもが事件当時のままだ。破れた襖。割れた蛍光灯。花を活けたまま倒れている花瓶のなかからは、水の腐った臭いが発せられている。前田は、この時間のとまった家のなかで一日を過ごす秀一を頭に浮かべ、身震いした。
「達也さんの部屋を見せてもらっても構いませんか」
束の間、秀一は眉間に皺を寄せたが、すぐに悲しげな笑いを作って了承した。
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