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 リビングルームで甲高い怒鳴り声が聞こえる。鼓膜を突く、聞き慣れた騒音にため息をつき、宗像は布団を頭から被った。  足音を響かせ廊下を走るあつしを、香苗は神経質に叱るようになった。なんでも真下の部屋から苦情がきたらしく、最近では引越しすることばかり考えている。生活音だと宥めようとしたが、一戸建と集合住宅とは出して許される音の種類が違うのだと反対に詰られた。いっこうにキンキン声は止まる気配を見せない。  諦めてベッドを抜けだし、立ちあがって伸びをする。カーテンを開けた。目を眩ませる日差しが部屋に満ちる。 ――今日も、暑くなりそうだ。  時計は八時を過ぎたばかりだ。いきなり襖が開いて心臓が大きく跳ねた。緊張の目を戸口にむけると、半ベソをかいたあつしがいた。  昨日、あつしは誕生日を迎えた。     
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