1

2/11
前へ
/114ページ
次へ
 仕事帰りに寄り道をするなんて、何年ぶりのことだろう、などと考えながら歩く繁華街は、いくつになっても宗像には異世界のように思えてならない。もとより、終業後は家にまっすぐ帰ることの多い生活をしていた。結婚後もそうであったし、あつしが生まれてからというもの、その傾向はますます顕著になっていった。同僚は、そんなことで息抜きができるものかと馬鹿にしたが、リラックスするのなら家族のいる『家』が一番に決まっている。  前もって香苗が聞きだしておいたデジタルプレーヤーを求めて、仕事帰りに家電量販店へ立ち寄ったものの、店へ入った途端にげんなりしてしまった。人の多さもさることながら、何よりも同じ商品に色だけでなく種類が多数ある。事細かに情報を仕入れていなかった妻に少なからず苛立ちを感じたが、手ぶらで帰るわけにもいかない。気後れしつつも、どれがいいのか迷いながらサンプルをいじっていたところ、すぐさま男性店員が現れた。  息子が小学四年生だと告げ、手際の悪さを恥じていると、店員はうしろにあった白い商品を手にとった。これなら映像も見られるだの、音楽をダウンロードするのも楽だのとしばらく説明されるままに聞いていたが、そもそも頼まれていたものが何をするものなのかも知らずに売り場へ足を運んでいる自分に驚き、呆れた。反面、まだまだ子供だと侮っていた息子が、いつの間にこんなものに興味を持つ年ごろになっていたのかと、自然に頬が綻んだ。     
/114ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加