2.藤倉くんと特等席

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車両の一番端っこ。 藤倉はいつも俺をここに座らせ、自分はその隣に座る。 俺が壁と藤倉に挟まれる形だ。 別に嫌って訳じゃないんだけど、何で毎回俺が壁側なんだろう。 たまには逆でもいいんじゃないか、と提案したことがあるのだが、どうしてもだめと拒否されてしまった。 変なところに拘るなぁ。 いつもの駅で先に降りる。 振り返ると、やはり彼もこちらを見ていた。 ひらひらと手を振る彼の隣にはポカンと空いた一人分の空間。 さっきまで俺が占領していた場所。 その隙間が、何だか少しだけ寂しく思えた、気がした。 ----- 彼が電車を降りてしまってからたった一駅分のこと。 彼を見送った後当然のごとく藤倉は澤が座っていた端の席に移動し、まだ残る彼の温もりを感じていた。 「…足りない」 目を閉じて、さっきまでの会話や去り際の彼の表情を思い出しては咀嚼する。 明日になれば、睡眠時間を除いて後数時間もすればまた会えるのだと己に言い聞かせながら。
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