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やや肩透かしを食った気分だが、後のことは任せるとしよう。
「相談なら乗るよ? どこか、場所を変えようか」
「…………」
「とりあえず、これ使いなさい」
親切な男だ。ハンカチまで取り出し始めた。
下心が見え隠れしないでもないが、何もせずに遠巻きに眺めている人々よりはましだろう。
親身になって励ます男と、頑なに口を閉ざす女。
行く末も少し気になるが、後は二人の世界。
ジロジロと覗き見るのも失礼なので、軽く背を向けて座り直す。
携帯電話を取り出し、時刻を確認する。
いい加減に、目当ての電車が来てもいいはずなのだが……。
そう思ったところに、アナウンスがタイミング良く流れる。
『特急電車が通過致します。危険ですので、白線の内側へお下がりください』
思わず出る舌打ち。
お目当ての電車は、まだしばらくお預けらしい。
近づいてくる電車の音、しかし出るのはため息。待っているのはお前じゃない。
立ち上がってしまったこと自体が気まずいが、仕方なく再びベンチに腰を下ろす。
入れ替わるように立ち上がる、隣の女。
何気なく見上げると、勢いよく駆け出していった。
「ちょ、ちょっと待――」
ホームから線路へと飛び出す女。
滑り込んでくる特急電車。
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