第8話 演技派の女

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「なにごとよ、こんな時間に。これから風呂に入るってのに、何の用だい?」 「知人が階段から転げ落ちたって聞いて飛んできたんですけど、どうなったか知りませんか?」 「ああ、さっきのあれね。ものすごい音だったからビックリしたわよ」  どうやらこの女は、事故当時も家にいたようだ。  ついさっきまで煩わしそうにしていた女は、またも豹変。  今度は話好きのおばちゃんといったところか。こちらが胡散臭いものではないとわかり、警戒を解いたのだろう。  こちらから質問するまでもなく、次々と話し始める。 「雷でも落ちたのかと思って慌てて外に飛び出したら、そこに女の子が血を流して倒れてたのよ。それで、名前覚えてないんだけど二階の部屋の男がボーっと突っ立ってたから、『早く! 救急車!』って言ってやったのよ」  彼女は得意気に体験談を語る。  身振り手振りのゼスチャー。  感情のこもった抑揚。  ちょっとした演技派女優だ。すっぴんで部屋着のままだが。  この手の人種は話し始めると、本当に止まらない。     
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