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「それでも茫然としてるから、仕方なく私が救急車呼んであげてね。落ち着かせて話を聞いてみると、彼女が躓いて転がり落ちたっていうじゃない? ドジよねぇ。でも、救急車で運ばれるまでピクリとも動かなかったから、ちょっと心配だわ――」
階段を塞ぐ形で横たわる女性。
頭から血を流し、顔の下側にできる血だまり。
そして階段の中ほどから、茫然とした表情で見下ろす中澤の姿。
この女が心配するのも当然な状況だ。
こんな記憶が頭に浮かんだせいか、表情にみるみる表れる嫌悪感。
そして、その記憶をかき消すように頭を振ると、突然の激昂。
「――あー、もう! あんたのせいで思い出しちゃったじゃないの……。あんな気持ち悪いのは、もうごめんだわ!」
一方的に話したいことだけを話し、勢いよく閉められるドア。
結局『彼女がどうなったか』と聞いて以降、口を挟む暇も与えてもらえなかった。
だが、語られた彼女の言葉に嘘や勘違いがないことは、記憶の映像からも明らか。この上ない情報をもたらしてくれた演技派女優には感謝しなければ。
そして確信する。
(――真実を知ってしまっちゃ、黙っていられないな……)
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