2人が本棚に入れています
本棚に追加
第9話 目撃者の男
病院へと舞い戻る。
面会時間はもう終了しているせいで、一階のロビーにも人影はない。
ひんやりとした廊下の照明も最小限に抑えられ、不気味な薄暗さに靴音だけがこだまする。
(さて、どうしたもんかな……)
やけに大きく聞こえる、エレベータの到着を知らせるチャイム。
単身乗り込み、五階のボタンを押す。
さっきはあんなに長く感じたはずなのに、あっという間の到着。
扉が開くと、壁に描かれた大きな『5』という数字が出迎える。
さあ、いよいよ本番の幕開けだ。
今なお、病室に掛かる『面会謝絶』の札。
隣のソファーで中澤が頭を抱え、その隣で唯子が涙ぐむ情景は、さっきと変わらない。違うのは中澤の服装と手荷物だけだ。
そこへ歩み寄ると唯子が気づき、こちらを見上げる。
「あ、鳴海沢さん。お帰りになったのかと思ってました」
心配そうに声を掛けてきたが、彼女には構わず中澤の前へ立つ。
もちろん、サングラスは外して。
「中澤さん、ちょっとお話があるんですが、お付き合い願えませんか?」
「あん? お前、誰だよ」
見上げる中澤。顔はこちらに向けたが、目は合わない。
「鳴海沢って言います。お時間は取らせませんから……」
最初のコメントを投稿しよう!