第9話 目撃者の男

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「あんたが『ユイ』って呼んでるあの子だよ。最初に姿を見た時、嬉しそうな表情してたじゃないか。こんな状況だっていうのに」 「…………」 「今回のこと俺が話したら、きっと悲しむだろうな。どうするよ」 「…………わかった……」  中澤は力なく返事。  随分と時間はかかったが、やっと完全に折れた。  次はいよいよ条件交渉だ。暮らしぶりを見るに、あんまり吹っ掛けられそうもない。それに露骨な要求をすれば、こちらが恐喝で突き出されかねない。  しかしそんな中、中澤は意を決したようにすっくと立ちあがると、重い鉄の扉を開く。  金でも取りに行こうというのか。まだ要求すらしていないのに。 「おい、どこへ行くんだ」 「話してくる……。自分で」 「そうか、そうか。って、おい! ちょっと待てよ」 「ありがとう。おかげで吹っ切れたよ」  振り返った中澤は、爽やかな笑顔を見せた。  さっきまでの力ない彼は一体どこへ。  そのまま、力強い足取りで病室の方へと戻っていく。  おいおい、マジか。自首するつもりなのか?  覚悟を決められてしまっては、もう彼に怖いものはないだろう。  仕方なくあとを付いて歩く。さっきの彼の如く、肩を落として。  ――まいった。とりっぱぐれかよ……。
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