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「あんたが『ユイ』って呼んでるあの子だよ。最初に姿を見た時、嬉しそうな表情してたじゃないか。こんな状況だっていうのに」
「…………」
「今回のこと俺が話したら、きっと悲しむだろうな。どうするよ」
「…………わかった……」
中澤は力なく返事。
随分と時間はかかったが、やっと完全に折れた。
次はいよいよ条件交渉だ。暮らしぶりを見るに、あんまり吹っ掛けられそうもない。それに露骨な要求をすれば、こちらが恐喝で突き出されかねない。
しかしそんな中、中澤は意を決したようにすっくと立ちあがると、重い鉄の扉を開く。
金でも取りに行こうというのか。まだ要求すらしていないのに。
「おい、どこへ行くんだ」
「話してくる……。自分で」
「そうか、そうか。って、おい! ちょっと待てよ」
「ありがとう。おかげで吹っ切れたよ」
振り返った中澤は、爽やかな笑顔を見せた。
さっきまでの力ない彼は一体どこへ。
そのまま、力強い足取りで病室の方へと戻っていく。
おいおい、マジか。自首するつもりなのか?
覚悟を決められてしまっては、もう彼に怖いものはないだろう。
仕方なくあとを付いて歩く。さっきの彼の如く、肩を落として。
――まいった。とりっぱぐれかよ……。
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