第1話 ホームでうつむく女

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第1話 ホームでうつむく女

(削除、削除、うーん……これも削除)  街を移るときの自分なりの儀式。それは、携帯電話の電話帳の整理。  掛けることもない電話番号を、いつまでも残していても鬱陶しいだけだ。 (川上唯子……。これは掛かってくると面倒そうだから、着信拒否だな……)  お目当ての電車を待つ、夜の一番線ホーム。  時間潰しにベンチで電話帳整理をしていたが、凪ヶ原での滞在期間が短かったせいもあって、あっという間に終わってしまった。  この、あざみ台駅は凪ヶ原駅から二駅。ターミナル駅ということもあって、乗降客も多い。  ふと隣を見ると、一人うつむく青い顔をした女。  気分でも悪いのかと思ったが、どうも様子がおかしい。  目をきつく閉じてみたり、かと思うとブツブツと呟き始めたり。  バッグを抱きしめ、とうとう涙までこぼし始めた。 (厄介なものを見ちゃったな……)  眼鏡をかけてビジネススーツを着た、二十代前半ぐらいの地味なタイプ。  気づいてしまったものは仕方ないか。  小さくため息をつき、サングラスに手を掛ける。 「大丈夫? 気分でも悪い?」  声を掛けたのは、年配のサラリーマン風の男。自分が声を掛けるまでもなかった。     
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