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「もう栞は大丈夫よ。全ての死の事実を強く受け留めている。だからこの誰もいない家のことを調べて、鍵を開けて貰って、戻る筈のないあんたの帰りを待ってたの。それどころか自分が何をすべきなのかを自力で見つけ出したのよ。贖罪如きで犯した罪は消えないけれど、好きだった先生の意志を継がなくっちゃって頑張っているのよ。だから私の手を貸す必要はなくなったの。だから私は早く出て行かなきゃって思ってたの」
「好きだった先生の……意志?」
僕は猫の顔で少女を見上げた。
「彼女は、あんたが死んだことをずっと疑っていたわ。ワニに食べられたことも、魂だけがその中で世界と繋がり続けたことも話したわ。彼女は私のことを気が狂った猫だと拒絶したの。でも共存しながら時間を掛けて嘘みたいな話しを理解させたの。彼女は、あんたと野良猫たちに救われた命を無駄にしないと誓ってくれたの」
「じゃあ、もう栞ちゃんは心配ないんだね」
僕は円卓に向かい合うように座ったシロシャンに尋ねた。
「大丈夫。でも受けた悲しみは計り知れないわ。ウサギが殺されて猫を憎悪したときのように、あんたを失う原因を作った自分を憎悪し呪いながら、破滅を求め絶望し、でも、そんなことして先生が喜ぶかの自問自答に明け暮れてたわ。その答えが猫たちに恩返しすることだったの」
「恩返し?」
「それが、好きだった先生の意志を継ぐ事だって自分で導き出したの……彼女は。漁港の広場の再開発が中止されたの知ってるでしょ。あれは彼女が泣きながら嘆願したの。彼女の御祖父さん、鈴田会長だっけ? 自分の退陣を賭けてまで計画を中止させたのよ。莫大な利益よりも、野良猫たちの自由を守りたいという孫娘の願いを優先したのよ。だから猫転び石の広場に猫たちが戻ってきたの」
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