● スメルズ・ライク・ティーン・スピリット

1/2
前へ
/158ページ
次へ

● スメルズ・ライク・ティーン・スピリット

 実体を持たない僕は天に昇っていった。    やがて猫や人間と神の領域を分けるような成層圏を越え、地球を眼下に小さく見据え、星からの歌の伴奏たる闇とステージの輝きの瞬きさえ超えた。  そしてグングンと限界点を目指しながら、天と地の境界腺の意味さえ失い、やがて昇り切った果てに青い海に墜落し。大きな飛沫を上げた。  間違いなく上昇していた。なのに今は沈没している。  沈没しながらの姿勢で、水面で戯れる赤ん坊のような無垢を見上げていた。なんで彼らを無垢と呼ぶのかって尋ねられても困るけど。無垢の他に形容出来る言葉は見つけられない。  無垢たちには姿は在ったけれど、肉体は無かった。  彼らは、揺らいでいるけど気でもなければ水でもなかった。  彼らは、そよいでいるけど風でもなければ波でもなかった。  彼らは、果てなく広いけど空でもなければ海でもなかった。  ましてや彼らは、天でもなければ地でもない。  彼らは、浮かんでいるのか沈んでいるのかわからなかった。  彼らは、留まっているのか漂っているのかわからなかった。  ただ流されてしまわないように、彼らが一つに身を寄せているのは分かった。 「ここは何処なんだよ? 君たち誰なんだよ?」  僕は訊いた。 「僕ら? 僕らは僕であって、僕は僕らだよ。群れなのか一人なのかわからないけど、皆で一つの夢を見ているんだよ。功績や、罪や、賞賛や、報いの重荷を捨てた。言葉や知識の宝も捨てた。無垢に戻った僕らは非力ではあるけど身軽なんだ。どこにだって行けるし何にだってなれるんだ」  彼らは言った。
/158ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加