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「ねぇ、ペン返さないの?」
携帯をポケットにしまい、茶化すように言う日向。
「あぁ、そういえば借りっぱなしだったね」
理人さんはスーツケースの上に乗せてある、革製のビジネスバッグを開けて中に手を入れた。
「はい、これ。長い間ありがとう、助かったよ」
今は誰の顔も見れない気分だったので、少し下を向き小さな声で「ありがとうございます」と言って受け取った。
「ということで、橘は振られたんだしもう帰れば?おつかれ」
「お前なぁ、よくそんなこと言えるな」
怒るというよりは、呆れているような口調だった。
不謹慎だが、そのやり取りを見て2人の仲の良さを感じ笑ってしまう。
「奏楓ちゃん、あいつはあぁいうところあるから、嫌になったらいつでも教えてね」
冗談ぽくそう言うと、「じゃあ、帰るよ」と言ってスーツケースを手に取った。
「あ、理人さん!」
出入り口へ向かう彼の背中に向かって叫んだ。
「私なんかに、ありがとうございました!嬉しかったです!」
理人さんは振り向かなかったが、軽く右手を挙げてから出て行った。
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